消費税法第9条第4項は、消費税の免税事業者が、あえて課税事業者となることが出来る、という内容を規定した法律です。
本記事では、個人事業主の方を対象に、話を進めます。
何故わざわざ、免税事業者から課税事業者となって、消費税を収める立場になろうとするのか?
それは、設備投資などをして消費税の還付金を狙えるからです。
ただし、原則課税制度の適用を受けている方に限定されます。
以下、順を追って説明していきます。
目次
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者の違いは、消費税の納税義務があるかないかの違いです。
2年前の年間総売上が1,000万円を超えているかいないかが、免税事業者と課税事業者の分岐点となります。
免税事業者の要件
2つ要件があります。
<免税事業者の要件>
・2年前の年間総売上が1,000万円未満であること
・1年前の1月から6月の期間の売上が1,000万円未満であること
図解すると、以下の通りです。
課税事業者の要件
以下の要件を満たすと、課税事業者となります。
<課税事業者の要件>
・2年前の年間総売上が1,000万円以上であること
または、
・1年前の1月から6月の期間の売上が1,000万円以上であること
図解すると、以下の通りです。
原則課税制度と簡易課税制度の違い
ここで、原則課税制度と簡易課税制度の違いについて、述べます。
消費税の還付金を狙うのなら、原則課税制度の適用を受けている必要があります。
原則課税制度とは
この制度は、特別な手続きをせずに、何もしないでいれば、課税事業者となったら、自動的に適用されます。
原則課税制度で消費税を計算する場合、以下のように計算します。
<消費税の計算式(原則課税制度)>
消費税=仮受消費税-仮払消費税
仮受消費税とは、受け取った(預かった)消費税のことです。
課税売上高などが該当します。
例えば、年間総売上が2,000万円であった場合、仮受消費税は、この8%の160万円となります。
購入者から、あらかじめ160万円の消費税を受け取った(預かった)と考えます。
仮払消費税とは、支払った消費税のことです。
要は、経費のことです。
お店で物品を購入すると、商品価格の8%の消費税を支払いますよね。
この消費税のことを、仮払消費税と言います。
例えば、商品の仕入れにかかった費用が3,000万円であった場合、仮払消費税は、この8%の240万円となります。
簡易課税制度とは
この制度が適用されると、売上に対して消費税を計算することが出来ます。
簡易課税制度で消費税を計算する場合、以下のように計算します。
<消費税の計算式(簡易課税制度)>
粗利=売上-売上×80%
消費税=粗利×8%※第二種事業(小売業)の場合
この式を見れば明らかな通り、消費税は、今年度の年間総売上に基づいて計算されます。
第二種事業(小売業)の場合は、粗利20%と決めて、消費税を計算していますね。
なので、粗利が20%を超える商売をしているのなら、簡易課税制度の適用を受けたほうが消費税の納税額を抑えられます。
簡易課税制度の適用を受けるなら、消費税簡易課税制度選択届出書を税務署に提出する必要があります。
消費税簡易課税制度選択届出書は、課税期間の開始の日の前日までに提出する必要があります。
詳しくは、『消費税簡易課税制度選択届出書には色々制約があることに注意!!』を御覧ください。
原則課税制度だと消費税の還付金を受けられる
消費税の還付金を受けられるのは、消費税を計算して、マイナスになる場合です。
よって、原則課税制度の適用を受けた場合に限定されます。
もう一度、原則課税制度の消費税の計算式を示します。
<消費税の計算式(原則課税制度)>
消費税=仮受消費税-仮払消費税
例えば、年間総売上が2,000万円であった場合、仮受消費税は、この8%の160万円となります。
そして、例えば、商品の仕入れにかかった費用が3,000万円であった場合、仮払消費税は、この8%の240万円となります。
上記の値を、原則課税制度の消費税の計算式に当てはめてみましょう。
<消費税の計算式(原則課税制度)>
消費税=仮受消費税-仮払消費税
仮受消費税=160万円、
仮払消費税=240万円のとき
消費税=160万円-240万円=-80万円→80万円の還付金を受けられる
消費税がマイナスになっているのが分かりますね。
この場合、マイナス分だけ消費税が還付されます。
これに対して簡易課税制度は、年間総売上に基づいて消費税を計算しているため、消費税がマイナスになることはありえません。
消費税の還付金を狙うのなら、原則課税制度の適用を受けている必要があります。
消費税法第9条第4項の適用を受けるには?
2年前の年間総売上が1,000万円未満で、かつ、1年前の1月から6月の期間の売上が1,000万円未満であった場合、今年度は免税事業者となります。
免税事業者となった場合、いくら設備投資をしても消費税の還付金を受けられません。
ですが、消費税法第9条第4項の適用を受けると、免税事業者から課税事業者になることが出来ます。
消費税法第9条第4項の適用を受けて、免税事業者から課税事業者となるためには、消費税課税事業者選択届出書の提出が必要です。
この消費税課税事業者選択届出書は、課税事業者の開始の日の前日までに提出する必要があります。
以上の内容が、『消費税課税事業者選択届出書』の「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」に記載されている内容になります。
この届出書は、事業者が、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間においても納税義務の免除の規定の適用を受けないこと、すなわち、課税事業者となることを選択しようとする場合に提出するものです
『消費税課税事業者選択届出書』の「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」より
消費税課税事業者選択届出書を出したらずっと課税事業者
消費税課税事業者選択届出書を提出したら、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出するまで、未来永劫課税事業者となってしまいます。
消費税の還付金を狙う方は、注意が必要です。
以上の内容が、『消費税課税事業者選択届出書』の「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」に記載されている内容になります。
この届出書の効力は、提出した日の属する課税期間の翌課税期間から生じます。したがって、課税事業者となることを選択しようとする課税期間の初日の前日までにこの届出書を提出しなければならないことになります。
『消費税課税事業者選択届出書』の「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」より
課税事業者をやめるには
先程簡単に申し上げましたが、消費税課税事業者選択届出書を提出後、課税事業者をやめるには、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要があります。
消費税課税事業者選択不適用届出書の提出期限は、免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日までです。
以下、図解します。
消費税課税事業者選択不適用届出書のPDFファイルは、国税庁が公表している『消費税課税事業者選択不適用届出書』からダウンロード出来ます。
以上の内容が、『[手続名]消費税課税事業者選択不適用届出手続』に記載されている内容になります。
[提出時期]
免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日まで
消費税課税事業者選択届出書には2年縛りの制約がある
消費税課税事業者選択届出書を提出した後は、最低でも2年間は課税事業者となってしまいます。
この二年間は、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出して、課税事業者をやめることは出来ません。
調整対象固定資産を購入したらさらに3年間の縛り
また、この2年縛りの課税事業者の期間中に、以下に該当する調整対象固定資産を購入した場合、購入した年度から、さらに3年間は課税事業者をやめることが出来ず、原則課税制度が強制的に適用されます。
<調整対象固定資産>
(1) 回路配置利用権
(2) 預託金方式のゴルフ会員権
(3) 課税資産を賃借するために支出する権利金等
(4) 令第6条第1項第7号《著作権等の所在地》に規定する著作権等
(5) 他の者からのソフトウエアの購入費用又は他の者に委託してソフトウエアを開発した場合におけるその開発費用
(6) 書画・骨とう
以上の内容が、『消費税課税事業者選択届出書』の「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」に記載されている内容になります。
なお、この場合は事業を廃止した場合を除き、課税事業者を選択して納税義務者となった日から2年間継続した後でなければ、課税事業者をやめることはできません(法9⑥)。
さらに、この届出書を提出し課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間(簡易課税制度の適用を受けている課税期間を除きます。)中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合には、その課税仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までは課税事業者をやめることはできません(法9⑦)。
この場合、この間は一般課税(原則課税制度)による申告を行うこととなります(法37②)。
『消費税課税事業者選択届出書』の「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」より
高額特定資産を取得したら原則課税制度のまま
消費税課税事業者選択届出書を提出すると、向こう2年間は強制的に課税事業者となってしまいます。
課税事業者の消費税の納税方法には、原則課税制度と簡易課税制度があります。
消費税課税事業者選択届出書を提出して、わざわざ課税事業者の道を選んだのですから、最初は原則課税制度の適用を受けて、消費税の還付金を狙うはずです。
ですが、このままですと、翌年も原則課税制度の適用を受けてしまいます。
本記事で述べた通り、粗利が大きい場合、原則課税制度ではなく、売上に基づいて消費税を計算する簡易課税制度の適用を受けたほうが、消費税の納税額を抑えられます。
ですので、初年度に1,000万円以上設備投資して、消費税の還付金を沢山もらった後、消費税簡易課税制度選択届出書を提出して簡易課税制度の適用を受けて、消費税の納税額を抑える、という戦略を考える方もいることでしょう。
しかし、そう甘くありません。
この、1,000万円以上設備投資のことを、「高額特定資産」と言います。
「高額特定資産」とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。
初年度に1,000万円以上設備投資した場合、翌年は原則課税制度で納税しなくてはなりません。
さらに、次の年も課税事業者となり、かつ、原則課税制度で納税する義務があります。消費税課税事業者選択不適用届出書を提出していたとしてもです。
上記の内容につきましては、国税庁が公表している『消費税法改正のお知らせ』に記載されています。
まとめ(消費税法第9条第4項:あえて課税事業者になり消費税の還付を狙う)
・本来なら免税事業者である年度でも、消費税課税事業者選択届出書を提出して、課税事業者となることが出来る
・消費税課税事業者選択届出書を提出したら、未来永劫課税事業者となる
・ただし、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出することで、また免税事業者に戻ることが出来る
・だが、消費税課税事業者選択届出書を提出後、向こう2年間は課税事業者をやめることが出来ない
・消費税課税事業者選択届出書を提出後、調整対象固定資産を仕入れた場合、3年間は課税事業者をやめることが出来ない
・課税事業者かつ原則課税制度が適用されると、消費税の還付金を狙える
・消費税の還付金を受けた後、簡易課税制度の適用を受けて、消費税の納税額を抑えるという戦略がある
・しかし、1取引で1,000万円以上購入(高額特定資産)した場合、強制的に原則課税制度で納税することになる
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